これほど深いアルバムはない、と言ってもいいと思う。「下向きの螺旋」の意味することは大変に深い。これは私にとっては人生の転機になったアルバムなので、思い入れもひとしおだ。このアルバムにも「broken/fixed」にもあった「対照的なイメージ」が盛り込まれている。そう、負のエネルギーで既存のものを突き破り、正のエネルギーを獲得すると言う考えだ。ネガティヴを突き詰めて、ポジティヴにひっくり返す、と言うか。
「下向きの螺旋」とは「産道」を意味するのではないだろうか。男性にはわかりにくいと思うが、赤ん坊は生まれる時には女性の子宮から「螺旋」を描いて新しい世界に出てくるのだ。そして、頭から生まれて来る…つまり「下向き」。これに気付いた時、あまりに深い言葉だと思って震えが来たものだ。
このアルバムを制作にあたり、トレントがコンセプト・ワークをしていた時期、彼等はロラパルーザ・ツアーを終えてGN'Rのツアーの前座をつとめるためにヨーロッパにいた。そこでオーディエンスの完璧なまでの拒絶にあい、トレントは深く傷ついていた。その激しい拒絶のあと、トレントはホテルの部屋の床に座って、ぼーっとしていた…その時、このアルバムのコンセプトが浮かんだのだと言う。「極限までの負のエネルギーで既存のものを突き破ってみたら、きっと次に新しいものが得られる」。それがTDS
のコンセプトなのである。
これはアルバム全体を通してひとつのストーリーになっており、最後に「hurt」を入れることで完結するようになっているそうだ。「hurt」のビデオを見ると、最後に死んで腐った動物の画像が逆回しになって、腐乱状態から戻るシーンが出て来る。この「再生」を意味する画像こそが、トレントのメッセージを象徴しているのではないだろうか。
そして、激しい波のように続く曲(実際殆どの曲が前の曲と繋がっている)の中で、真ん中過ぎに入る「a
warm place」。これは「色々なことに絶望した時に、こんな世界もあるんだと言うことを思い出して欲しい」と言うトレントの気持ちが込められている。これがまさに「子宮」にあたると言えるだろう。誰にでも経験のある、暖かくて穏やかな、安全な場所…と言うことだ。しかし、そこで止まってはいけない。そこから後半の波に乗り、「自分で自分を産み直す」。これが大切なことなのだ。
「自己破壊の魔法」に囚われてしまっては、このアルバムの素晴しさは堪能できない。「closer」なぞ何と美しい歌詞だろうか。これを初めてきちんと読んだ時、トレント・レズナーと言う人は何と美しい詩を書くのだろう、と私は感動した。>>
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そしてこれは「closer」のヴァージョン、「closer
to god」に出てくる歌詞だが「君とファックしたい、君を味わいたい、君を感じたい、君になりたい」…こんな切ない愛情表現があるだろうか。もはや究極と言えると思う。
こんな詩を書ける人間が、一見、世間でよく言われているこのアルバムの形「自己破壊と自虐」を推奨していることに疑問を持って欲しい。「the
downward spiral」が象徴するように、あれは逆説を説いているのだ。そんなことはバカバカしい、と言っているのである。実際、あの曲を聴いて自殺した人間がいることを、トレントは大変遺憾に思っている。そして「そうではないんだ」とはっきり言っている。
音的にも申し分なしの仕上がりだし、通しで聴くのが一番いいと思う。随所に入っているサンプリングが、サブリミナルのように産み出すイメージは何度聴いても飽きることはない。そして、聴き慣れたらぜひ、彼の声に注目して欲しい。心の底からしぼり出すように訴えているからだ。このメッセージを正確に受け取って欲しい、と言う強い願いがそこにある。
…ここで引用した全てのトレントの言葉と彼が置かれていた状況は、実際に彼がインタヴューで発言したものである。断じて私の作ったものではない。
私はある日、このアルバムを聴いていて、ものすごく「私は私を変えなくては」と言う衝動にかられた。このアルバムの意味に気が付けば気が付く程、その思いは高まって行き、ある時を境に私は自分を「解放」した。『何に対しても嘘がない』これが私が作った新しい自分だ。そう、システムをインストールし直すように、私は新しい自分を作り上げた。そのおかげで、私は人生が楽しい。毎日が幸せだ。明日死んでも、私はきっと後悔しないだろう。
こんな素晴しい二つ目の人生を与えてくれたトレント・レズナーに、私は心からの敬意と愛情を捧げる。彼は私の大切な人だ…心から愛している。
<1997年初出>
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